しお風イラスト_カラスウリ

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二宮に住んで十六年になります。こちらに来て、初めて出会ったものが色々あります。中でも驚きだったのは、カラスウリの花です。場所はたしか、変電設備か何かのフェンスに絡んだ蔓でした。

朝顔は、朝開き、昼になると萎れてしまうので、子どものころからなまけものの私は、夏休みの観察日記で苦労しました(起きた時には萎んでいる…)。これに対し、カラスウリの花は夏の夜、暗くなると開き、夜明けにしぼんでしまうので、かえって勤勉な皆様のほうが、なかなかお目にかかれません。

直径10cmもある、白い大きな花を開きますが、繊細なレース状の花は闇の中で目立つとはいえません。しかしライトで照らし、ほのかな香りとともに浮かび上がる姿は、どきりとするほど神秘的でした。星の世界で言えば、星座の闇に大きな翅を開く星間ガスの淡い散光星雲、たとえばオリオン座大星雲や干潟星雲といったところでしょうか‥

天文という仕事柄、私は夜に野外をうろうろすることがよくあります(怪しまないでくださいね)。カラスウリの他にも、マツヨイグサも夜に咲く花ですし、反対に、ネムノキなどは、夜になると葉を閉じてしまいます。地球という星の上を流れる時間の半分は夜という世界で、そこには昼とはまた異なる、自然の豊かな表情があるのです。

平塚では、めいっぱい葉を開いたまま、街灯の光を浴びるネムノキに出会うことがあり、心配になります。あの木は、いつ眠るのだろう。眠らなくて大丈夫なのだろうか、と。

作者 澤村泰彦(
平塚市博物館

2016.8.1発行しお風掲載

 しお風 神保智子