しお風201605
火星と地球が接近しています。最接近は5月31日(日本時)です。今回は、接近の程度が中くらいなので、中接近と呼ぶこともあります。当館のプラネタリウム担当は「火星(マーズ)だけに、まずまーずの接近」などと言っているようですが(うわっ)。

19世紀のおわりから20世紀初め、大型化した望遠鏡によって火星表面が詳しく観測されるようになりました。その結果から、人々はそこに走る「運河」の存在を仮想し、高度な文明を持つ火星人の存在を空想しました。SF小説はタコのような火星人を考案し、私の世代は子どものころ、宇宙人といえば直立するタコやクラゲの姿を連想したものです。

酒席での思い出で恐縮ですが、水族館の方から、タコはとても頭が良いと聞いたことがあります。ただ、彼らは水槽からの脱走にその知能を絞るより、安穏に飼われた方がおトクと考えているのではと。

ヒトの脳が発達したことは、直立と関連があるといいますが、彼ら(タコ)は水中という暮らしやすい環境の中で、直立しようと思えばできるのに、なんとなくグダグダゆっくり進化中、などと想像すると、とても楽しくなります。いつかついに、私利私欲の追求に明け暮れ荒廃した人間支配に愛想をつかし、地球のためにタコが文字どおり「立ち上がる」‥日が来るかもしれない。かつて我々が空想した、あの赤い星の住人のように。

火星はおよそ2年2か月おきに地球と接近し、輝きを強めます。前回の接近は4月で、満開の花の向こうに輝くのを見ました。今回は薫風の5月、色々な季節に順次訪れてくれる、ちょっと通(つう)の旅行客さんみたいですね。

作者 澤村泰彦(平塚市博物館

2016.5.1発行「しお風」掲載

 
 しお風 神保智子