以前しお風紙に星をテーマに連載させていただきました。今回は博物館的な日々の興を天文に限らず紹介いたします。読者の皆様にはこれまでの無沙汰をどうかご容赦ください。
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さて、連休に吾妻山にお出かけの方も多いことでしょう。見事な眺望の中、とりわけ箱根の二子山に私は魅かれ、ひそかにダブルダブルスターと呼んでいます。

ダブルダブルスターは、本来こと座ε(イプシロン)星の愛称です。七夕の織女星にあたるベガに近い一星ですが、双眼鏡で観察すると実は接近した二つの星から成っているのがわかります。このような星を二重星といいます。ところがこのε星は、望遠鏡で見れば二星のそれぞれがまた二つずつの星で構成される、いわば二重の二重星で「ダブルダブルスター」と呼ばれるのです。

二子山も旧街道側のある方角から眺めると、上二子山、下二子山のそれぞれにまた丸みのある山が二つずつあり、四つ子のように見えます。宮ノ下や小涌谷、芦ノ湖西岸などから眺めても、吾妻山から双眼鏡で眺めても、なぜかそのようには見えません。昨秋それを目の当たりにした驚きから、二子山に畏敬の念を抱くようになりました。

吾妻山からふたつの丸みを見るたび「あの山はほんとうは・・・」と思い、また朝の二宮駅の窓からも「ああ、あの山はほんとうは・・・」と、いちいち思ってしまいます。この手の個人的な喜びは、とびきりのお料理にも劣りません。しかも、おかわり無料です。

景色には、理由があります。ちょっと先ですが、平塚市博物館では本年秋の特別展に景観を地質学的に紹介する特別展を準備中。御期待下さい。

作者 澤村泰彦(平塚市博物館

2015.5.1発行「しお風」掲載

 しお風 神保智子